秋晴れという言葉が良く似合う3連休の最後の日。
僕は下町を北東に横切る常磐線の車両に乗り込み、のんびりと車窓を眺めていた。
飾らぬ街並みが陽光の中にたたずみ、ゆったりとした時が穏やかに流れている。
分秒を争う仕事に揉まれた体には、そうした日常的な景色が逆に新鮮に感じられた。
「亀」有という駅名にどことなく親近感を覚えながら車両を降りる。
目指すのは南口から徒歩5分ほどのところにあるショッピングモール「アリオ亀有」だ。
ここでは正午と午後3時の2回に渡り、藤本美貴さんのトークショーが開かれる。
現場らしい現場に足を運ぶのは、ほぼ1カ月ぶりである。

かなり広いモールだが、目的地はすぐに分かった。
1階のフードコートの只中にクリーム色の幕が張られている。

中には200脚ほどのパイプ椅子が置かれ、その全てが既に埋まっていた。
客層はお年寄りから子供まで幅広い。
もちろん、ハロプロの現場によくいる顔もちらほらと見えた。
きっと、先方もこちらを見て同じことを思っていることだろう。
椅子に空きが見当たらないので、立ち見のスペースに回る。
壇上でミキティが座るであろう椅子を見定め、そのゼロズレの位置を確保した。
立ち見としては最前なので、決して悪い場所ではない。
しばらく待っていると、司会役の女性が幕の向こうから姿を見せた。
「元モーニング娘。、現在はバラエティ番組に舞台、神戸コレクションではモデルと幅広く活躍中。
プライベートでも幸せいっぱいの藤本美貴さんのスペシャルトークショーを行います」
この説明はヲタではなく、一般の買い物客に向けたものだ。
今のミキティの立ち位置を雄弁に物語っている内容のように感じた。
「今日は開店前から並んで下さった方もいるとのことで・・・」
これは間違いなく我が軍の精鋭のことだろう。
結婚したとはいえ、まだまだ熱心なファンが多いようだ。
見上げると、吹き抜けのフェンス部分にも人が鈴なりになっている。
足を止める一般層の数がミキティの知名度の高さを示していた。
時計の長針と短針が重なると、本日の主役が下手から壇上に登場した。
赤とライトグレーのチェック柄の半袖シャツに、デニムのホットパンツ。
すらりと伸びた足を黒いストッキングで包み、足元は踵が高いショートブーツで決めていた。
明るい栗色の髪は肩まで伸び、くるりと緩やかな曲線を描いている。
相変わらずお人形さんのように綺麗で、見ていると思わず顔がほころんでしまう。
「皆さん、本当に幸せそうな顔になりましたね〜」
それを見透かしたかのように、司会の女性がそんな一言を挟んだ。
「今日のファッションのテーマは?」
「秋はやっぱりチェックで。甘い中にもロックな感じを入れて、甘辛ファッションです。
あと、最近はショートブーツばっかり履いてますね」
甘いけどピリリと辛いという部分は、ミキティ本人のイメージにも相通ずるものがあると思う。
ここからは本格的なトークショー。
ミキティを取り巻く様々な話題に触れながら、和やかなムードで進行していく。
彼女は時折、吹き抜けの2階や3階にいるお客さんを見上げながら、笑顔で手を振っていた。
モデルとして出演した神コレについて。
「何もかも(普段の仕事と)違いましたね。モデルさんの身長とかも(笑)
でも、色んな服を着れて楽しかったです。ジル・スチュアートとか、ウェディングドレスとか。
こーんな(大きな)羽根がついたのも着させてもらいました」
「いいですねー。ウェディングドレスは、旦那さまは見たんですか?」
「いや、神戸だったんで」
この素っ気なさがミキティらしい。
「バックヤードはどういう雰囲気なんですか?」
「何百人も出るから慌しかったです。でも、早替えはモーニング娘。でずっとやっていたので大丈夫でした」
彼女の口からサラリと娘。の名前が出る。
あの日々が幻ではなく、今も彼女の一部であることの証拠だった。
フットサルについて。
「サッカーより動きが激しくて、怖い印象がありますが」
「あー、キーパーは怖いと思いますね。
紺野あさ美ちゃんとか、辻希美ちゃんがやってるんですけど。
でも、女の子ばっかりで、本当に楽しくやってますね」
ミキティ曰く、サルは室内でやるため、天気が悪くとも服が汚れないのがいいらしい。
また、先日楽日を迎えた明治座の舞台について。
「コロッケさんはすごく優しかったです。
ものまねショーがあるんですけど、そこで使うカツラを貸してくれて。
私は楽屋でそれを着けて、(ブログに載せる)写真を撮っていました」
あとはもちろん、今が旬の話題である、結婚生活についても。
「結婚式はハワイで?」
「はい。2人とも、両親がけっこういい歳なんで、なかなか海外旅行には行かないんです。
これで最後になるかもしれないというので、じゃあ行こうよと」
「結婚してから、2人の間で変わったことはありますか?」
「(結婚後も)特に変わらないですね。子供もいないし、変わったのは一緒に住んでることくらいです」
買い物で一緒に部屋着を買ったり、旦那の好物のカレーライスを作ったり・・・。
ごくごく自然に新婚生活について語るミキティ。
ヲタに鞭を打つような内容だが、会場には特に動揺はなかった。
一般のお客さんが多いせいかもしれないが、ヲタが事実を受け入れていることも背景にあるだろう。
20代前半の女性が好きな男性と巡り合い、結婚し、幸せになる。
考えてみれば、あまりにもありふれた慶事ではないか。
最後には、ミキティが11月22日(いい夫婦の日)に発売する本の告知があった。
「自分婚〜MIKITTY’S WEDDING MANUAL:自分らしいオリジナルウェディングのための18ステップ〜」
ミキティが実際の経験を元に、自分たちらしい式を挙げたいと思っているカップルに向けて書いたという。
「自分で準備をしてみて、結婚って知らないことだらけだな〜って思ったんです。
インターネットで色々調べたんですけど、こんなことまでやるんかい!って。
ブーケは新婦が自分で選ぶとか、指輪交換でリングピローっていうものが必要だとか・・・」
リングピローとは、要するに指輪を置くクッションのことらしい。
苦労話をしているはずなのに、その顔はとても楽しそうだ。
自分で使う時が来るかどうかは分からない本だが、出たら取りあえず買ってみようと思った。
着席しているお客さんを対象に、抽選でサイン色紙のプレゼントが終わると、イベントはラストを迎えた。
時間にしておよそ30分。短いイベントだった。
最後の最後に、ミキティから今日のお客さんたちに向けてメッセージが。
「今日は体育の日ですが、ここに集まっていただいて、ありがとうございます。
これからも、私らしく、楽しく頑張っていきますので、よろしくお願いします!」
この言葉を含め、今日のイベントを通じ、やはりミキティはどこまでも我が道を行く人なのだと実感した。
僕はそんなミキティの生き方が好きだし、軽い身のこなしでそれを成し遂げる彼女に憧れすら感じる。
自由に、自分が思うように生きることは、実は一番大変なことではないだろうか。
凡庸な僕はといえば、人生のままならなさを身をもって学ぶ毎日だ。
モーニング娘。を脱退してから2年半が過ぎ、幾多の出来事を経て彼女の立ち位置は大きく変わった。
アイドルから、ママタレントならぬ新婚タレントとも言うべき存在へ。
おそらく、そう時を置かずに新婚というある種のご祝儀(プレミアム)が剥落し、活動は新しいステージに突入するはずだ。いずれ正念場を迎えるであろう彼女の戦いを、これからも細々と見守っていきたい。
僕は下手に消えるミキティの後ろ姿を見届けると、会場を後にした。
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